タカビOG・OB‖CROSS TALK 《岡本太郎賞まで・そして、から》
- パネリスト
- 関口 光太郎(彫刻家)
- 三宅 感(彫刻家)
Session1 ─現在・学生時代─
【岡本太郎現代芸術賞岡本太郎賞受賞】
司会本日は、タカビ彫刻科の同期で、また岡本太郎現代芸術賞[1]岡本太郎賞受賞者のお二人にいろいろお話を伺おうと思います。時期は違いますが、お二人ともに大賞受賞という快挙に驚きました。
関口僕は2012年に受賞しました。卒業後、三宅一生さんの企画する展示に出品して、もうデビューという感じですごく幸せだったんですど、その後は何もなくて「どんどん打ち出していかないと、すぐ終わっちゃうんだ」と思って「もう一度自分からトライしなきゃいけない」ということで、二年かけて太郎賞に向けて死ぬ気で制作しました。受賞した時は本当に嬉しかったです。自分が世の中で芸術をやっていい人間なのか、ということを賭けてやっていまた。僕は狡くて、母が女子美卒で、父はグラフィックデザインをやっている家庭で育ったこともあってか、コンセプトやどうしたら評価されるかというのは常に考えていました。その時の太郎賞は震災後ということもあって、そのことへのアンサーが求められていると感じ、震災への思いをテーマにしました。
三宅関口くんが受賞した時、搬入を手伝ったんですけど、「これやばいな。関口くんに賞取られちゃうな」ってハラハラしてました。受賞発表をバイト先でネットで知って、すごく悔しかったんですけど、とりあえず「おめでとう」ってメールしました(笑)
司会関口さんは受賞したのは20代?
関口 28歳ですね。 受賞の後、色々なメディアで「20代の新進気鋭のアーティスト特集」みたなのに取り上げられて、やっぱり若さって価値があるから、ギリギリの年齢でしたね。「天狗にならずに、自分からゼロから打ち出していくのがアーティストの人生なのな」と思いました。その作品のタイトルが『感性ネジ』っていうんですけど、ネーミング感は実は三宅くんから影響を受けています。「感受性ベロン」っていう、未完だけど映画を作ってたよね。言葉のセンスがすごくいいので、ちょっと拝借しました(笑)
三宅その受賞作品展示の時に、関口くんが「三宅くんもきっといけるよ」と言ってくれて「じゃあ、やってみるよ」と。30代にも突入しそうだったし、それがくすぶっていた重い腰をあげるきっかけでしたね。
司会あの巨大な壁画は、じゃあ関口くんの言葉がきっかけで?
三宅そうですね。関口くんに触発されてなかったら作ってなかった。で今思うとあの壁画はとても作り込みがあって、具象性の高い作品ですよね。それは自分の中では満足でいいんだけど、もっと抽象的に周りを引き寄せる余地はなかったのかなと思いますけどね。
関口そんなことはないと思うけど、抽象的だからいいってことはないよ。
三宅だから、次の作品はもっと、どうとでも取れるような、流動的というかフローな感じの作品を作りたいですね。あるいは、展示する場所に違和感を打ち込むようなものかな。例えば、セクシュアルなものとか。彫刻って、重力とか素材とかいろんな制限があるんです。それって作っいくごとに、体も動かすし、現実的な側面ばかり見えてきて、とても男性的な部分があると思うんです。僕は、両親が武蔵美の油絵出身で、頭の中は完全に抽象形態というか、どこまでも脳みそだけで飛躍するようなタイプの人間なので、その生感覚とか肌っぽい感じを彫刻に入れたら、すごく気持ち悪い感じが出て良いんじゃないかな、って。
関口それは楽しみですね。
大学時代
司会大学時代はどんな感じでしたか?
関口タカビで出会ったのが、三宅くんだったり、他の後輩だったりと非常に魅力的なメンツで、高校時代孤独だった自分にとってとても衝撃的でした。「あ、美大の世界にはこういう人たちがいっぱいいるんだな。」と希望を持てました。でも、大学に入ってみると割とフツーで、カチカチに固まった粘土みたいで、それをどうつき崩すかという感じだったんですけど、思うようにはいきませんでした。1, 2年の頃は、授業の内容もアカデミックなことが多くて、冬休みとかも長いし一日誰とも口を聞かないこともあって、完全に意気消沈していました。でも、ある日のバイトの帰りがけに、原付で転倒し怪我して「このままだといつ死んでもおかしくない。でも、明日死ぬとは限らないんだから、精一杯やろう」と、そんなことで意識の改革が起きたんですね。ピカソって、作品数が2~3万点と言われていて、それって一日一個制作より多いんですよ。「じゃあ、自分は天才じゃないんだったら、ピカソより多く作るしかないんじゃないか」って。それで3年になってから、生まれ変わったんですよ(笑)
三宅 変わったよね。確かに。
関口やっぱり、1,2年生の時は教授とかの伝統とか、あるいは「彫刻とはこうである」みたいなアカデミズムとかを意識するから、その範囲でしか活動できてなかったんだけども、それがある時点で、いい意味で「バカバカしいな」と思えたんですよね。それで、まず手を動かすようにして、とにかく「頭で考えて口で喋って終わりにするのはバカだ」と思って。頭で考えたら、口じゃなくて手を動かして作品にして、それでその作品に対する批判を胃で受けよう、と(笑)
三宅批判されるの?
関口実際されることもあるし、自分で「ダメだった!」って落ち込むこともあるし。とにかく、口じゃなくて手を動かすんだ!という意識改革をしていたら、楽しくなって色々作っていきましたね。
- 【註】
- 1.岡本太郎現代芸術賞 故岡本太郎の遺志を継ぎ、「時代を創造する者は誰か」を問うため の賞。旧来の慣習や規範にとらわれず、自由な視点と発想で創作活動を行う作家の活動 を支援し、優れた業績を顕彰する目的で岡本太郎没後すぐに創設(2006年岡本太郎現代 芸術賞に改称)。平面、立体にとらわれず幅広い分野から応募可能、年齢、国籍も不問の 公募展である。現在では主な日本の美術賞の一つとして定着している。